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2015/01/19

落書き男と売れないミュージシャン

tagging = 自分の存在を誇示する落書きの事を指す


大都会のメインストリートから少し脇に入ると
至る所にスプレーで書かれた落書きが目立つ

短いアルファベットの羅列は落書き主の名前か
本人が所属してるギャングのチーム名だ

まるで犬のマーキングの様に彼らはアルファベットを書く

そんなクダラネェ落書きがビッシリト書かれ
汚れきった灰色のコンクリート壁を背に俺はギターを弾きながら歌を詠っていた

誰も通りそうにないションベン臭い脇道で歌う事を選んだのは
この道に咲く雑草の小さな花の上に死にかけた黄色い蝶ちょが居たからさ

雨上がりの冷たい秋風に凍えてるコイツに歌ってやりてぇて思ったんだ


そんな俺と、あの子のLOVEな空間に招かれざる客がやってきた

サイズが合ってない灰色の大きなパーカーには蛍光色で落書きみたいな文字が書かれている
買ったばかりのようにツバの折ってない真っ赤なキャップ帽を深くかぶり金色のロンゲをなびかせながら
ソイツは俺と、あの子の前を横切った

そして通り抜けてすぐ横に立ち止まると
スプレー缶で落書きを始めた

そのインクが風に乗って俺の方にやって来た

俺は言った
「こんな所に落書きしても誰も見ねぇぜ!書くんなら他所で書きな!」

奴が吹きかけてるスプレーから漂うシンナー臭が
俺の愛しの可愛い子ちゃんを傷付けるからだ

ギャングは俺に言った
「あんたこそ、そんな所で誰も聞いてないのに歌を歌って何がしたいんだ?」

俺は、その馬鹿に言った
「聞いてる奴は居るんだよ、お前が気づいてないだけでな」

そして続けた
「俺の歌の方がテメェの意味不明な落書きより遥かに多くの人の役に立つだろうが!」

するとギャングは鼻で笑って、これみよがしに壁に落書きを始めた
俺には、ただのグチャグチャな線に見えたが
もしかしたら意味が有るのかも知れない

しかし、そんな事はどうでも良かった

俺は言った
「テメェの落書きは此処に書く必要ないだろ?他所で書きな!」

すると奴は嘲笑いながら俺を横目でチラ見して言った
「オメェこそ、こんな人気の無い所で歌ってないで別のところで歌えよ」

俺は強い口調で言った
「俺はコノ場所で歌う事に命を賭けてるんだよ!!」

俺は血管を浮き上がらせ
長年に渡り訓練してきた複式呼吸で天にも届く様な声で叫んだ

「俺の命がけの歌を妨害するてんならテメェも命賭けて落書き続けろよ!子等!!」

これで引かないなら俺はギターで奴の脳天を振るわせると決めていた

コッチン、コッチンとメトロノームみたいに何度もな

その意志の強さが伝わったのだろうか?
奴は「チッ」と舌打ちをして片手をブラブラと上げて、やれやれと言った様子で別の場所に向かった


俺は歌を詠った
ギターを弾きながら歌を詠った

この場所でしか詠えない歌を詠った

まもなくして夏が終わり、アノ子は死んだ

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